組織はいかに意思決定をおこなうのか。筆者が学部時代に取り組んだ研究テーマである。経済学によれば、組織は完全情報収集を行い、完全な合理的な意思決定をおこなうと定義されている。
しかし、ノーベル経済学賞を受賞したSimon(1947)は、実際の組織は不完全な情報収集のもとで、不完全情報の中で満足できるような意思決定をおこなうという。それだけではない。March=Olsen(1976)によれば組織の内部プロセスはあいまいなものであり、そのようなあいまいのなかで意思決定が行われる。これを学んだとき、当時学生で組織の合理性を疑わなかった著者は大きな驚きを覚えたことを記憶している。
March=Olsen(1976)は、意思決定における組織のあいまいさについて4つの要因をあげている。目的のあいまいさ、手段のあいまいさ、参加者のあいまいさ、コンテクスト(歴史的経路依存性)のあいまいさである。実際の組織では、すでに仮説的な解決策をもった参加者が、解決できる問題を後付けで探して決定する。
この文脈から、ファミリービジネスの意思決定について見てみよう。関与する参加者については、所有経営者である一族メンバーが大きな影響力をもっており一般的な組織よりもあいまいさが少ない。他方、手段や目的、コンテクストがあいまいなファミリービジネスの場合、一族のエゴが組織の意思決定に反映されやすくなるし、然るべき牽制も利きにくい。
ファミリービジネスの標準的なテキストには、ファミリービジネスの欠点として拙速かつワンマンな意思決定があげられている。他方、メリットに迅速な意思決定もあげられている。冷静に考えてみると両者は表裏一体の関係である。
日本では、ファミリービジネスの経営について結果論で評論されることがしばしばある。良い結果であればこのメリットが強調され、批判の対象となる場合は欠点が強調される。
しかし、March=Olsen(1976)の示唆は、意思決定の結果ではなく、プロセスに着眼するべきということだろう。ファミリービジネスは、意思決定の参加者として一族が強い影響力をもつ。であれば、企業は目的(パーパス)を明確にし、目的の実現手段(戦略や戦術)を検討していかねばならない。また、コンテクスト(ファミリービジネスの歴史、)を理解しているかも、あいまいな意思決定に陥らないヒントになるかもしれない。
図 ファミリービジネスの意思決定要素
(出所) March = Olsen (1976)を参考に筆者作成。
(参考文献)
March, J. G. & Olsen, J. P. (1976). Ambiguity and Choice in Organizations. Universitetsforlaget.(遠藤公嗣訳『組織におけるあいまさと選択』文眞堂, 1986年)
Simon, H. A. (1947). Administrative Behavior: A Study of Decision-Making Processes in Administrative Organization. Macmillan.(松田武彦・高柳暁・二村敏清訳『経営行動:組織における意思決定プロセスの研究』ダイヤモンド社, 1989年)
この記事の執筆者
静岡県立大学教授