近年、日本の金融機関でウェルスマネジメント部門を強化するところがふえている。そもそもWealthという言葉は、富を示し、金融資産や不動産だけではなく、ブランドやレガシーのような無形資産を含む概念である。金融資産や不動産は測定が可能であり売買市場も整備されているため扱いやすいが、無形資産は測定やマネジメントが難しい。
伊丹・加護野(2003)は、企業の経営資源を下の図のように整理している。現金や有価証券のような資源は有用であり、市場調達が容易である。しかし、組織文化やブランド、技術のような見えざる資産(無形資産)は市場調達が困難であり、だからこそ競争優位性の源泉になりうる。
無形資産は、金融資産などの源泉となる収益を構築する重要なドライバーとしての働きがある。早稲田大学の米田隆教授によると、無形資産は工場や店舗、機械設備のような有形資産(物的資源)に働きかけ企業の生産活動に良い影響を与えると指摘する。エルメスと一般的製造業を比較してみよう。製造に活用している機械や技術レベル、生産工程も同じであっても、出荷段階において前者の方が高付加価値な製品になりやすい。
ファミリービジネスは、企業が成長することで、有形資産も量的に拡大する。また、事業が数世代にわたって長期的に継続することで、ブランドやレガシーのような無形資産の蓄積も進んでいく。
無形資産は、見えざる資産であり構築に長期的な時間がかかるからこそ、競合企業にとって模倣が難しい。仮に時間をかけたとしても、歴史的なコンテクストが異なるから、同じような価値を生み出す資産になる保証もない。無形資産が差別化戦略の源泉になり、新たな富(利益や金融資産など)を生み出すことにつながる。
今後ウェルスマネジメントを担う金融機関には、大きな期待がかかる。従来、ファンド、株式、債券などの資産運用がそのアドバイスの中心であった。たしかに、これらのアセットマネジメントは、金融資産としての富の維持と最大化を促すことができる。
しかし、米田教授が示唆するように、金融資産形成の源泉となった事業活動をドライブする無形資産(富)にかかわるコンサルティングも重要となろう。今後の金融機関のセールスパーソンには、オーナー経営者に食い込み信頼関係を構築するスキルにくわえ、富(金融資産+無形資産)のマネジメントの助言能力が不可欠だ。
図 経営資源としての無形資産(見えざる資産)
(出所) 伊丹・加護野(2003)より引用。
(参考文献)
伊丹敬之・加護野忠男(2003)『ゼミナール経営学入門〈第3版〉』日本経済新聞社.
この記事の執筆者
静岡県立大学教授