42. 3世代のパイプライン ~黄金サークル~

2026/10/29

 事業承継を支える要は、社長(当代)・後継者・番頭で構成されるトップマネジメントグループです。この3者が信頼関係を築き、「存在意義」「未来構想」「財務」「ファミリービジネス特有の課題」を率直に共有できるかどうか。ここに補完関係ではなく、共に未来を描く“共創関係”をつくることが、経営チームづくりの出発点となります。もしこの3者で信頼が揺らぐなら、真の経営チームは生まれません。

 

 ただし、忘れてならない存在があります。それが先代です。先代の歩みに敬意を払い、そのご苦労や理念に込められた想いを知ること。それは「自分たちの会社」として受け継ぐための大切な手続きです。時に親より祖父母の言葉が心に響くこともあります。孫の成長を見て事業の命が繋がる姿を実感することは、先代にとっても大きな喜びであり、その姿が次世代の責任感を育みます。

 

 さらに見落としてはならないのが、『女将(母の存在)』です。事業に直接関わるかどうかに関わらず、後継者と最も長く時間を過ごし、人としての心を育てるのは女将です。オーナーが後継者に「経営者としての責任」を育てるなら、女将は「人としての器」を育む存在といえるでしょう。

 

 このように、先代・当代・後継者・女将・次期女将・番頭・次期番頭の7名でつくる輪こそが3世代のパイプラインです。互いの立場を尊重しながら、未来の企業を共に創っていく「黄金サークル」として機能させることが、事業承継の成否を分けるのです。

経営学者・落合康裕の視点

 経営チームの基盤となる信頼の構築には、関係者間の長期にわたる相互信頼チェックシステムが必要です。また、構築した信頼関係の維持には、経営チーム内部の人々にとどまらず、外部の取引先を含めた人間関係の機微への高度な配慮も不可欠です。松下幸之助は、「誰も見ていないような些細なこと」にこそ、細心の注意を払うべきであるとの教訓を残しています。信頼関係は、そのような関係性の細部に宿っており、関係者が気づかないうちに壊れてしまうガラス細工のようなものです。

 「番頭」や「女将」などの存在は、単なる経営チームのメンバーとしての役割を超えて、信頼の構築と維持のマイスターと言えるでしょう。しかし、私が研究滞在している欧州では、中々理解してもらうことが難しい日本固有の概念の一つでもあります。ファミリービジネスの研究者の一人として、さらに当該分野の研究活動が活発化することを願ってやみません。

この記事の執筆者

加藤 隆一
加藤 隆一

ロマンライフ専務取締役・番頭

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授