
はじめに
非上場の老舗製造業の二代目社長が急逝されたと相談を受けました。ご相談のきっかけは、国際結婚をしてヨーロッパ在住の一人娘(ご長女)が、事業会社(当社)の株を承継してしまうと、日本で国外転出時課税の適用を受けてしまうのではないか、というものです。こたえは、(残念ながら)その通りです。
二代目社長は60代後半でまだまだ現役、当社の株を30%弱保有していました。この二代目社長を含むファミリー全体の持株比率は4割弱、残りの6割は非ファミリーの個人や取引先数社が保有しています。創業からこれまでの数十年間においては本業にも紆余曲折があって、ファミリー内でも株式が分散している現状から、株の集約にはいくつかのハードルがありそうです。ただ、当社はニッチ産業で純資産が分厚く株価が高いため、聞くところによると、先代のご相続の際にも相続税の納税資金をどうやって捻出するのか、とてもご苦労されたとのことでした。
そんな中で、今回は、国外転出時課税の論点。仮に、ご長女が株を相続しなければ、国外転出時課税の適用を受ける必要もなくなりますので、そのようなご提案も一応差し上げたのですが、、、ご長女はきっぱりと、二代目保有の株の全部を可能な限り相続したい、と断言されました。その理由は、家業を承継するためには「筆頭株主でありたい」。
ご長女は、これから先、日本とヨーロッパを行き来しながら、当社の経営に本格的に従事されます。創業者から二代目へのご相続時点よりも株価が高くなっているので、納税資金の捻出については、さらにご苦労される選択となりましたが、お話をうかがうと、着眼点は自然とグローバルに。当社が世界で活躍できるフィールドをもっと開拓すれば、借りた資金は返せます、とのお考え。なるほど、と感銘を受けました。
税理士としては、いつも、より税金をより安くするための方法を模索する思考回路に陥りがちなのですが、かかるものはかかると割り切り、それよりも、グローバルな事業展開へと頭とリソースを集中させるべく夢を語るご長女の姿勢に、私たちも真摯に寄り添える存在でありたいと強く思いました。
「祖父と父が、本当に苦労して(会社を)大きくしてきたので…。」
ご長女の、この言葉が『ファミリービジネス』の全てを物語っているように感じます。
今回のテーマでは、ファミリービジネスとクロスボーダーの税務の論点を、少しずつ紐解いてご紹介させていただく予定です。まずは国際相続・資産税の分野から、上述のご長女のように、事業継承者が海外居住者である場合に関連する税務の論点を整理してまいります。どうぞ、よろしくお願いいたします。
この記事の執筆者

税理士法人山田&パートナーズ パートナー
税理士