後継者と“ミギウデ”となる番頭の年齢差は、概ね7~8歳前後が理想だと言われます。
この差が、上下関係だけでなく、経験の隔たりからくる相互尊重を可能にし、
対等な補完関係を築きやすいからです。
しかし、番頭を真に育て上げることができるのは、実は現経営者――すなわち先代に他なりません。幾多の修羅場をくぐり抜け、視座が高く視野も広くなった先代だからこそ、後継者の資質を冷静に見極め、その弱みを補える番頭候補を見出し、両者を育成できるのです。
特に親族内承継では、血縁という近さゆえにこそ、対話と補完の設計が必要になります。先代は、後継者と番頭双方の成長段階と性格を踏まえ、まずは「補完関係」を築かせ、次第に「信頼関係」へと導いていきます。苦境のたびに助け合い、汗をかくなかで、互いが唯一無二の存在になっていく――それが、理想的な“社長と番頭”の関係です。
また、番頭が後継者に対して進言や、時には耳の痛い“諫言”をする場面も出てきます。そのとき、後継者がそれをどう受け止め、どう咀嚼するか。ここでも先代の出番です。
「そこまで会社のことを考え、捨て身で諫言してくる部下を持って、お前は幸せやないか!」と心の置き所を示すのは、父としての、また先代としての重要な役割です。
番頭とは、単なる右腕ではありません。家族と経営のはざまで育まれる、深い信頼の文化の中から育つ存在です。そして、その“文化”を織りなす第一人者こそが、先代なのです。
経営学者・落合康裕の視点
経営者世代と番頭の関係は、多様な要素によって構成されています。第一に人間的な「相性」、第二に「世代間のつなぎ役」、第三に「相互補完性」などです。例えば、二代目と番頭の間では、「アニキ・弟分」の関係が構築できます。この関係を長期的にマネジメントできれば、夢を追う同士としての関係が作れます。
また、創業者と番頭の間にも、「オヤジ・もう一人の息子」の関係を作ることも可能です。創業者からすれば、毛色が異なる息子だからこそ、二代目に直接言えない大事な内容も、もう一人の息子である番頭には素直に伝えやすいこともあるでしょう。二代目の立場としても、父から言われるよりも同士から言われる方が真摯に向き合いやすいかもしれません。
創業世代チームと次世代チームのような協働関係を構築できれば、一族・非一族のギャップや世代間ギャップをむしろ組織変革の種に変えられる可能性が高まります。
この記事の執筆者
ロマンライフ専務取締役・番頭
静岡県立大学教授