信託の主たる登場人物は3名です。
これまで、「承継」の場面でどのように信託が用いられるかをご紹介してきました。今回から数回に分けて、信託の制度についてご説明します。今回は、信託の登場人物について説明します。
信託の主たる登場人物は、委託者、受託者、受益者です。
委託者は、信託する財産の所有者であり、信託スキームを始める起点となる人物です。委託者は、信頼できる者に自らの財産を託すことによって、信託をスタートさせることになります。この財産を預かる者を受託者といいます。
受託者は、委託者が設定する信託の目的を実現するため、委託者から託された財産の管理・処分を行います。これまでに数回、「委託者が受託者に財産を託す」といった表現がありましたが、これは信託する財産の所有権を委託者から受託者に移転することを意味しています。ただし、所有権が移転するといっても、贈与や売買による所有権移転とは異なります。
すなわち、受託者は自らの意図に基づいてその物を使用・収益するためではなく、信託する財産の管理・処分を行うことによって信託の目的を実現するために、外形的に所有権を持つのです。受託者は贈与や売買により財産の所有者と同様に広い権限を持っていますが、それはあくまで信託の目的を達成するためのものです。
受益者は、信託された財産から生じる利益を受け取る者です。委託者自身が受益者になることもあれば、次世代や第三者が受益者になることもあります。現在、日本で組成される民事信託の大半は、委託者が受益者を兼ねる自益信託として設計・開始されています。
委託者以外の方を受益者として設定する場合は、自益信託の対概念である他益信託となります。他益信託として信託をスタートさせる場合、税務の観点からは、委託者から受益者への贈与税課税が生じる可能性が高くなります。そのため、他益信託として設計する場合には、特に慎重な検討が必要です。
自益信託としてスタートさせた信託が、途中から他益信託となるケースもあります。例えば、事業承継に関する信託では、株式オーナーが自益信託として信託を開始した後、受益権を贈与または売却することで後継者に受益権を移転するケースがあります。
委託者、受託者、受益者は自然人だけでなく、法人が担うこともできます。ただし、自然人の場合と比べると検討すべき事項も増加しますので、スキームの登場人物の中で法人が登場する場合は注意が必要です。
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