37. 女将と番頭の連携 ~お家の奥さんと、会社の奥さん~

2026/08/31

「俺、社長の会社の奥さんになりますね!」

 

 これは、2代目社長の奥さまが今も笑顔で語られる言葉です。実際に私が口にしたのかどうかは、記憶があいまいですが、社長から「お前は仕事の奥さんやな」と言われたことはよく覚えています。番頭という立場が、社長のパートナーとして認められた瞬間だったのかもしれません。また、「番頭の社長との関係は、50対50だからな」とも言われたことがあります。この言葉が、私の番頭としての立ち位置を象徴していると思います。

 時に私は、2代目社長の奥さまと二人で飲みに行くことがあります。互いに「ファミリーの奥さん」と「ビジネスの奥さん」という役割を背負っていると、普段は人に話せないことも自然と語り合えるものです。奥さまから家族の事情や心境を伺うと、表面上の出来事の意味がつながり、私の対応が変わることも多々ありました。結局、人間関係の質は「どれだけ背景を知っているか」に左右されるのだと実感します。判断に迷うときこそ、奥さまに相談し、ファミリーの視点を借りるのです。

 ファミリービジネスでは、経営者・後継者・番頭に加え、女将の存在が見えないリーダーシップを発揮しています。その証拠に、後継者をオーナーへ育成するのは社長ですが、後継者の人間力(家風や倫理観を含む)を育成するのは、女将の役割なのです。

 スリーサークルモデル(家族・所有・経営)に、それぞれの「奥さん役」「右腕役」が揃ったとき、組織はぐっと安定する。まるで経営陣のさらに上位に「スリーサークルマネジメントグループ」が存在しているように思えてなりません。

 番頭の役割は単なる経営補佐にとどまりません。女将と連携し、社長を支える「もうひとつの夫婦関係」を築くことができるか。その関係性が、企業のファミリーガバナンスを目に見えないところで支えているのです。

 

――ここで、あなたに問いかけます。

 

Q: あなたの会社では、社長を支える「会社の奥さん役(右腕)」は、いらっしゃいますか?

Q: そして、その社長は「支えたい」と心から思える存在でしょうか?

経営学者・落合康裕の視点

  日本には、対の表現がたくさんあります。陰と陽、父性と母性をはじめ、社長と番頭(もしくは女将)もそうなのかもしれません。これらの表現は、単に変数としての両極を表現しているのではありません。対をなすことによる主要な効果として三つほどあげてみましょう。

 第一に、相互補完する関係を形成していることです。片方だけでは組織のバランスが取れません。かつてのソニーが飛躍できたのも、技術の井深大と営業の盛田昭夫という組み合わせの妙の存在したことかもしれません。

 第二に、お互いに学び合える関係ができることです。日頃、異なる役割を演じるからこそ、パートナーは自分にない知見を持っているのです。

 第三に、双方で支え合っていると認識できるので、心理的な安定感が生まれることです。経営者は孤独といわれます。だからこそ、時に自分の弱みを曝け出し、忌憚なく話し合える相手が重要になります。

この記事の執筆者

加藤 隆一
加藤 隆一

ロマンライフ専務取締役・番頭

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授