会社が生まれる時、そこには必ず“創業の精神”があります。戦後の混乱期に立ち上がった企業なら、「復興して明るい未来をつくる」という大志かもしれません。バブル期なら「新しい価値を創造する」という野心かもしれません。いずれも、計り知れない覚悟と想いが込められているはずです。
しかし2代目、3代目へと代が進むにつれ、「自分の代らしい経営を」と創業の精神を横に置いてしまうことがあります。もちろん、自らの経営観を持つことは重要です。ですが、それが創業の精神を忘れる形になってしまっていないでしょうか。もしそうであれば、それは危ういことです。なぜなら、創業の精神は企業を支える“扇の要”だからです。要が外れれば、どんな立派な扇(事業)も倒れてしまう。経営者が変わっても、この要がしっかりと存在するからこそ、企業は世代を超えて続いていけるのです。
では、この精神をどう受け継ぐか。まず、言葉として語り直すことです。創業の精神はしばしば抽象的なまま眠っています。これを今の時代の言葉で“翻訳”し、社員一人ひとりが理解し、共感し、日々の行動で体現できる形にする。この翻訳作業こそが、後継者、番頭や社歴の長い幹部の重要な役割です。
理念は飾っておくものではありません。採用、育成、日々の判断の軸として息づかせることで初めて力を持ちます。「この決断は創業の精神とつながっているか?」と問い続けることが、繁栄のエンジンになるのです。
創業の精神が、自社でどう生きているか。要がしっかりしているか。番頭や幹部として、あなたはそれを翻訳し、仲間に響かせる役割を果たせているでしょうか。もし今答えに迷うなら、今日からでも創業者の志を語り直す対話を始めてみませんか。
経営学者・落合康裕の視点
愛読書の一つに、楠木健教授の「ストーリーとしての競争戦略」(東洋経済新報社)があります。私は、研究を通じてファミリービジネスや事業承継の分野でも「ストーリー」が大事だと考えています。歴史が長い企業になればなるほど、各世代の行動は異なっても、創業の精神がストーリーとして世代を超えて通底しているものです。
創業者は何もない中で事業を作り上げた結果、創業理念の中に事業の目的や存在意義が述べられています。しかし、二代目や三代目の時代になると、創業者の頃と環境が大きく変化してしまい、今までとは違った経営が求められます。創業の精神がストーリーのように継承されておれば、後継者は創業の精神を指針に、革新的な発想や行動に挑戦できます。老舗企業では、先代世代が築いてきたストーリーの延長線上に後継者が挑戦し、独自のストーリーを継ぎ足しながら、事業のバトンを将来世代に受け渡しています。
この記事の執筆者
ロマンライフ専務取締役・番頭
静岡県立大学教授