
①創業期:
創業者は、事業も家族も自らの掌の中にあり、オーナーシップ・ビジネス・ファミリーの3つの円がほぼ重なっていました。家族も夫婦二人。意思決定もシンプルで、現場と家庭は一体でした。
②2代目の時代:
会社は成長を遂げ、社員も売上も拡大。ビジネスサークルが大きく広がる中で、組織の方向性を示すために「経営方針書」が必要となり、経営理念や価値観の明文化が進みました。
③3代目の時代:
ここで大きな転換点が訪れます。家族の人数が20名、30名と増え、ファミリーのサークルが大きく広がったのです。個々人の価値観や人生観も多様になり、経営と家族の間に立ち入れない「壁」が生まれはじめました。この段階では、「家族憲章」など、ファミリーの理念や行動指針の明文化が求められるようになります。
このように、スリーサークルは世代を重ねるごとに“重なり”が小さくなり、各サークルに個別の課題と対応が必要になるのです。特に3代目以降は、「ビジネス」「オーナーシップ」「ファミリー」すべての領域でバランスのとれた対応が求められます。
つまり、経営を任されたからといって、「お前に任せた」で済む時代ではないのです。むしろ、その『任された』後に待ち受ける複雑な課題こそが、ファミリービジネスの永続性を左右します。そして、まさにその領域こそが、番頭の出番だと私は考えています。
番頭の役割とは、オーナー経営者に先んじて課題を俯瞰し、ファミリービジネス特有のリスクと可能性を見極め、優先順位を整理しながら提言していくことです。時に、経営会議の議題の裏側にある“未顕在の火種”を見つけ出し、時に、家族の集いの中で交わされる何気ない言葉から、“次世代の兆し”を読み取る。このような「三つの円をつなぐ視点」と「一歩先の配慮」が、番頭に求められる真価なのです。
経営学者・落合康裕の視点
この記事の執筆者

ロマンライフ専務取締役・番頭

静岡県立大学教授