
このコラムの連載は、読者の皆様に「ファミリー憲章」や「ファミリー・ガバナンス」というキーワードをより身近に感じていただくことを目的としてスタートします。執筆は、弁護士や税理士、学術研究の分野での専門家、創業家ファミリーに相当する方々、そして、そのようなファミリーを具体的にサポートしてきた現場の方々にも投稿をお願いしていきたいと考えています。
「ファミリー憲章」がファミリーにかかわる何らかの約束ごとであることはすぐにイメージが着くと思います。どの家庭(家)でも、大小・多寡の差はあれ絶対守らなければならない約束ごとが一つや二つはあるのではと思います。ここでの“我が家の掟”とは、家業(ファミリーのビジネス)へのかかわり方に焦点をあてたもので、目的はファミリーのビジネスの永続と企業価値の向上、それによる次世代への永続的な継承を支えることにあります。このうち、日本で最も古いものの代表格は三井家の「三井家憲」であることは有名で、明治33年に109条からなる成文に対して、三井11家の当主が署名して成立したのだそうです。ところが、その後の時代から今日まで「ファミリー憲章」というものが、日本において馴染みのある存在になったかというと、必ずしもそうではないように思われます。
ファミリー内でのあうんの呼吸による経営の承継
事業承継とは高額な相続税対策がメインであり、相続税対策という大義名分に対しては、ファミリーが一致団結可能だった
だれが次の経営を担っていくかという後継者問題がそれほど心配のない状況下では、ファミリーも比較的まとまって行動できてきたのではないかと思います。ところが、経営者層の高齢化と人口ピラミッドの変化等による後継者の不存在や株式の分散化の進んだ現況においては、ファミリー内でのあうんの呼吸も難しくなりつつあります。
そんな中、企業の活性化を少しでも後押しする一貫として、経済産業省が動き出しました。「ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会」を発足、第1回目の会合が2025年3月30日に開催されました。当研究会でのターゲットは、新たに2024年に法的な定義づけをなされた『中堅企業』などです。
『中堅企業』とは、中小企業者を除く、常時使用する従業員の数が2000人以下の企業と定義されています。中小企業を卒業した企業であり、規模拡大に伴い経営の高度化や商圏の拡大・事業の多角化といったビジネスの発展が見られる段階の企業群で、国内で事業・投資を拡大し、地域での賃上げにも貢献している重要な存在と位置付けられており、この企業群を活性化させることは国としても重要な施策ととらえています。
経済産業省は、この『中堅企業』に対して、ガバナンス構築の仕組みづくりに、世界各国で唱えられているファミリー・ガバナンスの仕組みをとりいれられないのか、という提言を投げかけています。当研究会は全4回の会合が2025年中に終了する予定とのことですので、その行方も追いかけていきたいと考えています。
あうんの呼吸でファミリーのビジネスを受け継ぎ、仮に遺言がなくとも遺産分割をきちんと整えることができてきた日本の事業承継・資産承継の現場に、ファミリー内で合意した内容を文章に落として整備し、必要であれば、法的拘束力を付け加えることで、“スパイス”の効いた集団統治の仕組みづくりが実現するのではないかと考えています。
「ファミリー憲章」は『あったらいいな』から『なくてはならない』存在へと進化していくものだと想定し、そして、私たち実務家もその一助となるように尽力して参ります。
この記事の執筆者

税理士法人山田&パートナーズ パートナー
税理士