7.ビジネスを強くする~理念を軸に、求心力のある組織を創り上げる~

2025/09/30
「それは店長の考え方でしょ! 前店長はそんなこと言いませんでした!」
――これは、私が入社2年後に本店の店長に抜擢された際、改革を推進しようとするたびに、周囲から投げかけられた言葉です。何をしても、“前任者との違い”を理由に、拒まれる日々が続きました。
 
私は、学生時代のアルバイトで出会った、あるおじさんの「有難う」のひと言に心を打たれ、サービス業に人生を賭ける決意をした人間です。それだけに、この「伝わらない」現実がもどかしかった。
 
「どうすれば、この想いは届くのだろう?」
 
私は、言葉の力を磨くために、週に1冊、本を手に取りました。苦手だった読書が、毎日の習慣になっていきました。やがて気づいたのです。「この会社には、“考え方”を共有するものがない」私は、常務(のちの2代目社長)に食ってかかるように伝えました。「経営の方針が書かれたものを創ってください!」ありがたいことに、常務もその必要性を感じておられ、2年後には第1回経営方針発表会が実現しました。そのときの喜びは、今でも心に残っています。
 
以後、私はその経営方針書を“水戸黄門の印籠”のように掲げながら、組織に理念を浸透させていきました。時には人員が100%入れ替わるほどの変革も経験しましたが、最終的には、お客様からの「差し入れが絶えない本店」に成長を遂げました。私にとって、この経験は「甲子園」での試合のようなものであり、今も自分の経営の土台です。
 
『組織に求心力が生まれるとき』経営理念は、単なるスローガンではありません。社員一人ひとりが、「自分の人生観と重なる」と感じられるとき、理念は力を持ちます。企業と社員は、まさに“恋愛”のような関係です。まずは自社の想いを誠実に伝えること。そうして価値観が共鳴し合えば、社員は自発的に動き、長く寄り添ってくれる存在になります。
 
「求心力ある組織」は、理念の共有からはじまる。
――それが、番頭としての私の確信です。
 

経営学者・落合康裕の視点

経営理念は、経営者や従業員の発想や行動に指針を与えてくれるものです。しかし、経営理念を掲げていても形骸化している企業も少なくありません。環境変化が激しい現代社会において、経営理念は突破口となる方向性を提供します。それだけではありません。組織が成長することに伴い、創業の精神や価値観の浸透が難しくなります。中小規模の段階では創業者が直接社員に語りかけることができても、従業員が多くなり組織階層が多段階化するとそれが不可能になります。従業員参加型のワークショップなどを通じて、経営理念の策定を行い、朝礼や研修の機会などで従業員が参照する機会を持つことで組織の一体感を醸成することにつながります。また、家族憲章を策定する際に、自社の経営理念との整合性を検討することも重要となります。

この記事の執筆者

加藤 隆一
加藤 隆一

ロマンライフ専務取締役・番頭

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授