33. コストマネジメントで考える家族経営

2026/07/01

 今回は、ファミリービジネスの原始的な形態である小規模な一族事業について考えてみよう。財務管理の最初の講義で学ぶものの一つに、変動費と固定費がある。企業の生産量や売り上げが増加するときに比例して増加する費用が変動費であり、原材料費や外注費用がこれにあたる。一方で生産量や売り上げの増減に関係なく一定にかかってくる費用を固定費と呼び、代表的なものに人件費やテナント賃料がある。

 読者のなかには業務用スーパーでまとめ買いをした経験がある人もいるだろう。たとえば一本あたり150円の飲料をまとめて100本買うと10,000円で購入できるとする。まとめ買いをした場合の1本あたりの単価は100円となり、単品(150円)で買う時よりも安くなる。これを規模の経済とよんでいる。

 ではなぜ、安くなるのだろうか。これは一本あたりの原価において固定費の割合が下がっている(薄まっている)からである。10人の従業員で1本製造して売る場合の人件費と、同じ従業員数で100本製造して売る場合の一本あたり人件費は、単純計算で100分の一になる。

 通常、企業は事業存続において限界利益(売上高-変動費)を構築していかねばならない。限界利益は、固定費を含む利益のことである(下図参照)。製品サービスを一つ販売することで、どの程度の固定費を回収できているかを把握する指標である。

 通常、売り上げが順調に増加しているときには、生産を増やしたときの変動費の増加(限界費用)を気にしていれば良い。しかし、売り上げが下降して企業の経営が苦しくなると、生産量の増減に関わりなくかかる固定費をどうマネジメントするかがポイントになる。

 企業は思い切って人件費を削減するか、あるいは従業員に行き過ぎた成果を求めてしまいがちである。解雇法制が日本と異なる欧米では、レイオフ(解雇)は日常的になされている。ファミリービジネスも例外ではない。しかし、レイオフはコストを下げる分、企業は従業員だけではなく、彼らに蓄積された経験や技術も失うリスクが生じる。

 これに対して一族の個人商店は、従業員が身内であるからこそ多少の無理は聞いてもらいやすい。これは、何もコンプライアンスを逸脱せよという意味ではない。小さな一族事業は大企業と異なり事業環境の変化に弱い。ちょっとしたことで運転資金に窮したり、連鎖倒産に巻き込まれたりすることもある。そのときにコミットメントの高い身内の従業員はとても重要だ。飲食店や個人商店、フランチャイズ型のコンビニエンスストアの運営に家族経営が多いことが良い例である。

 このように、日々の実務の厳しさの中でも、運命を共にする一族という絆が努力を捻出する原動力になっている。事業が「ここぞ」というときに、理屈抜きで一丸となって危機を乗り越えようとしやすい形態が家族経営といえるかもしれない。

図 コストの構成要素

(出所) 筆者作成。

この記事の執筆者

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授