11.オーナー経営者との夢の共有 ~「本気の夢」が組織を動かす第一ボタン~

2025/10/31

 社員さんが「本気」で仕事に向き合うためには、理念や価値観という心の土台と、将来に向かう夢・ビジョンへの共感が不可欠です。けれど、それらを繋ぎ、現場に火を灯す決定的なものは、結局のところ「経営者自身の本気度」だと私は実感しています。

 私が今の会社に入社するきっかけも、まさにその「本気度」に惹かれたからです。入社面談の日、当時事業部長だった2代目社長が自ら比叡山をドライブしながら、これからの夢を語ってくださいました。ビジョンのスケールだけでなく、その熱量に心が揺さぶられたのを今でも覚えています。

 さらに、その後の3日間、私のアルバイト先である喫茶店に、社長は異なる方々を伴って毎日顔を出されました。どんな立場の人間にも誠意を尽くし、何度でも対話を重ねる。その情熱に、「この人は本気で私の存在を認めようとしてくれている」と心から感じ、私は入社を決断しました。

 入社後も2代目社長は変わりませんでした。新卒採用初日には、現場に足を運び、創業家としての使命感と夢を熱く語り続けていました。理念やビジョンは冊子にまとめただけでは社員の心に宿りません。創業家のDNAを受け継ぐ後継者が、自らの言葉と行動で繰り返し語りかけてこそ、はじめて組織に浸透していくのだと思います。

 いま、時代はますます先行きが読めません。不確実な時代だからこそ、社員が「ついて行きたい」と思うのは、本気で夢を描き、それを行動で示すリーダーの背中なのです。番頭の私たちも、その夢の『翻訳者』であり、『伴走者』として共に走る覚悟が求められます。

 

 あなたの会社では、オーナーの「本気の夢」は現場に伝わっていますか?

経営学者・落合康裕の視点

 経営学では、経営者と(一般的な)経営幹部の関係について、指揮命令系統、権限責任、専門経営者などの概念で外形的に説明することは可能です。しかし、オーナーと番頭との関係を経営理論で詳説するのはとても難解です。

 大企業では人事異動や転職によって、経営者や経営幹部が変わることがあり、二者の関係性はその都度リセットされます。他方、オーナーと番頭との関係は、相互のエンゲージメントが必要となります。一朝一夕で形成できる関係ではなく、協働を通じた信頼形成と長期的な相互の信頼チェックシステムを経て、揺るぎない基盤が構築できます。

 オーナーと番頭は、未曾有の環境変化に遭遇したとしても、風雪に耐えうる信頼基盤を活用して、悠然と適応できるのです。

この記事の執筆者

加藤 隆一
加藤 隆一

ロマンライフ専務取締役・番頭

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授