31. 家族憲章の制定 ~ファミリーガバナンスの罠~

2026/05/29

 

「本音が言える、戻れるをつくること」
これこそが、ファミリーガバナンスの真の目的ではないでしょうか。

 

ファミリービジネスは、ファミリーから生まれた企業です。その創業家の絆が緩めば、企業の中核は脆くなります。扇の要が外れたように、組織全体が形を失い、いずれ倒れてしまうのです。

老舗や長寿企業を目指すなら、日本人が古くから大切にしてきた「終身の関係」、いわば大家族的なつながりが欠かせません。創業家の間に父性(厳しさと責任)と母性(思いやりと包容力)が共存してこそ、社員は安心して力を発揮できます。そして、その家風が社風となり、経営の現場に根づいていく――これがファミリービジネスの強みだと思うのです。

 

近年、「家族憲章を作ればファミリーガバナンスが整う」という安易な考えを耳にします。しかし、家族憲章はあくまでルールにすぎません。形だけ整えても、絆が伴わなければ机上の空論です。

 

では、何が必要か。

家族間で本音を語り合える場はあるか

意見の衝突があっても、再び集まれる関係か

世代や立場の違いを超えて、共通の目的を確認し合えているか

こうした「場」と「関係性」があって初めて、家族憲章は生きた道具となります。

 

番頭の役割は、その場を設計し、時に仲介役として機能させることです。言い換えれば、憲章づくりよりも「語り合いと信頼を守る仕組み」をつくることが、ファミリーガバナンスの土台なのです。

経営学者・落合康裕の視点

 

大家族主義とは、経営の現場において経済性と人間性を同時追求するマネジメントスタイルです。ジェームズ・アベグレン()によれば、かつての高度経済成長期における企業と社員の関係は、労務提供と報酬支払の関係を超えたものがありました。社員運動会や慰安旅行、結婚や退職後の仕事の世話などが存在していたようです。

当時から時代環境が変化した現在でも、企業にとって、利益の構築が第一義であることは言うまでもありません。しかし、社員が実践の厳しさに耐え飛躍するためには、時に傷つき疲弊した社員に安らぎを与える母性も必要です。例えば、相撲部屋であれば、毎日の厳しい稽古を親方衆が担い、女将さんが力士たちを自分の息子のようにあたたかく包み込み面倒を見ています。

AIが仕事現場に浸透しつつある中、人のマネジメントにおいて経済性と人間性がますます必要となってくるでしょうし、この巧拙はまさに経営者や番頭の手腕にかかっています。

 

)ジェームズ・アベグレン(2004)『日本の経営(新訳版)』日本経済新聞社.

この記事の執筆者

加藤 隆一
加藤 隆一

ロマンライフ専務取締役・番頭

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授