12.~国際相続・事業承継最前線~ 「ファミリービジネスにおけるクロスボーダーの税務の論点を考える」 ファミリービジネスと国際相続・資産税

2025/10/31

① 日本における国外転出時課税制度の創設

 日本の税法では、日本に住んでいる個人が株式等を売却した場合に生じた実現利益に対して、株式等を売却したご本人に対して所得税がかかります。かつては、値上がり益が生じている株式等を、日本に住んでいる間に売却せず、海外に転居して日本の非居住者となった後に売却すると、日本の税金はかからないことになっていました。ただ、そうすると、値上がりしている株式等を日本に住んでいる間に売却せずに、海外に転居して売却しようという現象が生じていたので(いわゆる、キャピタルフライト)、平成27年度税制改正により、株式等を1億円以上保有する方が海外に転出する時点で、株式等を売却したものとみなして、その未実現の含み益に譲渡所得税を課税するという制度が創設されました。

 この制度は、株式等を保有するご本人が国外へ転出ケースのみならず、ご自身で保有する株式等を、国外に住んでいるご家族等に贈与、相続・遺贈する場合にも対象となります。また、対象となる株式等には、発行体の国内や国外に関係なく、また、上場しているか非上場であるかにかかわらず、一の個人である日本居住者が1億円以上の株式等を保有していれば、あらゆる株式等が対象となります。

② ファミリービジネスにおける国外転出時課税制度の影響

 ファミリー企業では海外展開に合わせて、将来の後継者等にあえて海外子会社を任せて経験を積ませる、また前回の「はじめに」に述べたケースのように、ご家族のどなたかが海外に住まわれている場合のご相続など、国外転出時課税制度が対象となるケースも決してめずらしいことではなくなってきました。

すでに事業承継対策の一環として自社株の一部を承継済みの後継者が海外に転勤する場合、海外に転出済みの後継者に、これから事業承継対策の一環として株式を移転したい場合、事業承継予定者に限らず、ファミリー内で早めに贈与をスタートさせたい場合に次世代のメンバーの一部が学業その他で海外に住んでいるケースなど、この制度の対象となるケースは多々想定されます。ですので、これからは、事業承継にあたっても、常に国際資産税の視点を合わせてもっておく必要があると感じます。

 

 なお、国外転出時課税の申告をする方が、国外転出等の時までに納税管理人の届出をするなど一定の手続を行った場合は、担保を提供した場合に限り、国外転出時課税の適用により納付することとなった税額について、納税を猶予することができます。

 

出典:

国税庁HP「国外転出時課税制度の創設」

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kokugai/01.htm

この記事の執筆者

田場 万優
Y&P ファミリービジネスコンサルティング
田場 万優

税理士法人山田&パートナーズ パートナー
税理士