16. ドイツ研究滞在紀行(1):アルトシュタット地区と醸造文化

2025/12/25

 筆者は、現在、所属大学のサバティカル研修制度を活用して、ドイツのヴィッテン・ヘアデッケ大学ファミリービジネス研究所(WIFU)に一年間研究滞在(20259月〜20268月)している。このコラムでは、ドイツの地域産業やファミリービジネスについて、「ドイツ研究滞在紀行シリーズ」として読者にお届けする。初回は、ビール醸造所が集積する地域の一つであるアルトシュタット地区について取り上げる。

 

 アルトシュタットは、デュッセルドルフの旧市街を指し、ライン川沿いに広がる歴史的地区である。同地区は中央駅(デュッセルドルフHbf)から地下鉄(U-bahn)で数駅の位置にあり、ライン川に面した歴史的地区である。ドイツ語の「アルト(古い)」「シュタット(街)」という名称が示す通り、中世以来の街並みも残されている。日本と異なり地震が少ない地域であることも関係しているかもしれない。地区内には13世紀から14世紀に建てられた教会や博物館が現存し、カールスプラッツ市場を中心に鮮魚、野菜、花、飲食店が集積している。

 

 特にライン川沿いの空間は、人々の仕事生活や余暇活動と密接に結びついている。リバーサイドでは、観光客や地元住民が遊覧船を楽しみ、週末になると屋外で音楽を聴きながらビールを飲む光景が日常的に見られる。アルトシュタット地区の醸造所は、こうした人々の憩いの場に隣接、あるいは一体化する形で存在しており、ビールが単なる飲料ではなく、都市生活のリズムや雰囲気を構成する要素として機能している点が特徴的である。

 

写真 ライン川を背景に筆者

画像1

(出所)筆者撮影

 また、デュッセルドルフはヨーロッパの中で在住日本人が多い都市としても知られる。中央駅を出てしばらく歩くと「インマーマン通り」があり、日本食レストランや居酒屋、高木書店(日本の書籍の取り扱い)が軒を並べる。中央駅から数駅先にあるオーバーカッセル地区には、日本人学校をハブにした日本人コミュニティが存在し、ドイツ生活に必要な情報が共有されている。オーバーカッセルの治安の良さと良質な住宅環境は、日本企業の駐在員を含む外国人居住者を惹きつけており、都市全体として国際性の高い環境が形成されている。このような地理的条件と文化的多様性が、アルトシュタット地区のビール文化を観光資源としても、地域の日常文化としても成立させている。

この記事の執筆者

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授