17. ドイツ研究滞在紀行(2):アルトシュタット地区におけるブルーパブの特徴

2025/12/25

 アルトシュタット地区のビール醸造業を理解する上で欠かせないのが、「ブルーパブ(自家醸造酒場)」という業態の存在である。この地区では、多くの醸造所がビアレストランを併設しており、製造と提供が同一空間内で完結している。それぞれが地域の景観と日常生活に溶け込む形で営業していることが示されている。UerigeSchlüsselなどのように、客席の奥に醸造設備を配置し、来店者が醸造の様子を視認できる構造は、品質への自信と透明性を象徴している。

 

 第二の特徴は、100年以上の歴史をもつ老舗醸造所が数多く存在する点である。Schumacher1838年創業)やUerige1862年創業)など、創業から一世紀以上を経た醸造所が現在も営業を続けており、ファミリービジネスとして一族によって承継されているところも多い。長期的な視点に基づく経営、地域との信頼関係、品質重視の姿勢は、日本の地域の酒造業と共通する特徴である。原材料や製造拠点がある地域を大切にするファミリービジネスがドイツにも見られる。

 

写真 ブルーハブに併設されている醸造設備

ブルーハブに併設されている醸造設備

(出所)筆者撮影

 第三に注目すべき点として、伝統的でありながら新規参入を排除しない地域的土壌が特徴としてあげられる。2010年創業のKürzerのような比較的新しいブルーパブが、老舗と並んで営業し、共存している事実は、アルトシュタットが単なる保守的伝統地区ではないことを示している。伝統を共有しつつも、新たな担い手を受け入れる柔軟性が、この地区の持続的発展を支えていると考えられる。これらは、日本の老舗ファミリー企業研究の知見とも整合的であるといえよう。伝統と革新が同一地区内で共存する構造は、アルトシュタットが経営環境の変化に適応し、競争力を保持し続ける源泉といえる。

 

(参考文献)

・Kürzerホームページ(アクセス日:2025/03/29https://www.brauerei-kuerzer.de

落合康裕(2021)「静岡経済ゼミナール 全国の酒造業にみる 経営危機を乗り越える"つなが

 り"の存在」『静岡経済研究所調査月報 : 明日の地域と企業の情報誌』59 (11), pp. 30-34.

・Schlüsselホームページ(アクセス日:2025/03/29https://www.zumschluessel.de

Uerigeホームページ(アクセス日:2025/03/29https://www.uerige.de/en/

 

 

この記事の執筆者

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授