30. 所有と経営の一致が意味するもの

2026/05/29

 

筆者のような経営学者にとって、Berie=Means(1932)はエポックメイキングな古典である。企業はその原点を私有財産制に求めることができる。企業が設立されて間もない段階では、外部の人びとを介さずに身内一族で経営がなされることが多い。

この段階では一族のオーナー経営者が、製品サービスの生産手段である土地や工場店舗を所有し、事業をおこなっている。一族は、真剣に経営することによって、より多くの成果を上げることができる。結果、企業の価値(資産)を拡大することができ、これが一族の最大のインセンティブとなる。

しかし、企業規模が拡大する成長段階で、企業は一族のカラーが徐々に薄まって、公共的なものになっていく。外部から多数の資本の出資を受けることで、工場や店舗が増加し、より多くの労働力を確保することにつながり、たくさんの製品やサービスを供給することができるようになる。

一族の関与が弱まることは、この資本の調達によって、従来のオーナー一族の持株比率が相対的に低下することが一つの理由としてあげられる。また、企業の規模が大きくなると、企業を取り巻く経営環境が複雑化することもある。個人事業では、取引先含むステークホルダーの数は限られるだろうが、大企業にもなると、何百何千にも及ぶ仕入れ先や顧客先と取引を行わなければならなくなる。多様なステークホルダーと良好な関係を構築せねばならないことも、企業にとって一層社会的な存在としての振る舞いが求められる一因となっている。

従来、Berie=Means(1932)が主張するように、小規模の段階は一族企業、企業成長に伴い非一族経営になることが常識であった。しかし、近年、研究が進み、上場企業でも一族が所有や経営に関与するパターンがあることがわかってきた。たとえば、トヨタ自動車。現在の代表取締役会長は創業家四代目の豊田章男氏である。同社は従業員約40万人を抱えるグローバル企業である。創業家一族の持株比率は上位10位には入らないが、同社のトップに一族がついていることは偶然の一致ではないだろう。

著者が編集委員長を務める「ファミリービジネス白書」の研究では、このような企業はトヨタだけにとどまらないことを明らかにしている。所有と経営の両方に関与する一族もあれば、所有のみ、もしくは経営のみに関与するパターンもある。このように、企業が成長しても、なぜ一族がいまなお関与し続けることが正当化されるのか。このような研究が進展することによって、ファミリービジネス研究はさらに奥行きが深いものになるだろう。

 

 

図 企業成長と「所有と経営の分離」

(出所) Berie=Means(1932)を参考に筆者作成。

(参考文献)

Berie. A. A. & Means. G. C. (1932). The Modern Corporation and Private Property. The Macmilan Company(北島忠男訳「近代株式会社と私有財産」文雅堂銀行研究社, 1958年)

後藤俊夫(監修)・落合康裕ほか(企画編集)(2021)『ファミリービジネス白書2022年度版:未曾有の環境変化と危機突破力』白桃書房.

この記事の執筆者

落合 康裕
落合 康裕

静岡県立大学教授