オーナー企業において、経営者は昼夜を問わず、会社の存続と発展、そして社員の物心両面の幸福を願い続けています。特に環境変化が激しい昨今では、経営判断が遅れれば、たちまち市場から退場を迫られる。経営とは、まさに命がけの戦いです。
そんな中、番頭たる右腕に求められるのは、オーナーの一言に対して「Yes, Sir!」と即応し、自らの責任で実行に移す胆力です。経営者が徹夜で考えた一手、誰にも相談できずに悩み抜いた策。それを真正面から受け止め、まずは行動に移す。たとえ不完全でも、やってみた上で「こう改善したらどうでしょうか」と振り返りを共有する。この「実践とフィードバック」の往復こそが、真の信頼関係を築く礎となるのです。
ときに、「でも…」「それは…」と、やらない理由から語り出す幹部もいます。もちろん、進言が必要な場面もありますが、それは行動の後でよい。最初から否定的に入る姿勢は、オーナーの孤独と重責を理解しない浅はかさに他なりません。命がけで組織を率いるリーダーに対して、まずは敬意をもって応答する。それが番頭の矜持であり、「一蓮托生」の覚悟なのです。
誤解してはいけないのは、これは「Yes Man」になるという話ではないということ。ただし、オーナーが本気で考え抜いた意思決定には、番頭としてまず正面から応える。それが、共に未来を切り拓く経営チームの要件であり、組織の真の強さを育てる起点となるのです。
経営学者・落合康裕の視点
経営者と番頭の関係を経営学で説明することは容易ではありません。かつて、本田宗一郎と藤沢武夫は、互いを「下落合」と「六本木」と両者の居住地の名称で呼び合い、経営意思決定にあたっては阿吽の呼吸であったといいます。本田の重要な意思決定の側には、常に藤沢がいました。
番頭には、高度な感受性に裏打ちされた能力が不可欠です。第一に、オーナーの想いを受け止め、それを吟味する能力です。時にオーナーは孤独であり、自分の内面を表出する壁打ち相手が必要になる場合もあります。また、オーナーの間違った方針を、そのオーナー自身が気付けるような環境を番頭が整備することも重要です。
第二に、言いにくいことを諫言する能力です。オーナー経営者は、社内では絶大な権限をもっています。時に、オーナーの意に反するが会社にとって譲れないことを聞き入れてもらわねばならない場合もあるでしょう。例えば社長の報酬を下げねばならない時に、「あいつが言うなら仕方がないな」と思われる存在が求められます。
第三に、どんなことがあってもオーナー経営者と二人三脚で「ルビコン川を渡る」覚悟を持たねばならないことです。そのようなタフな経験をオーナーと番頭が長期的に共有することで、本田と藤沢のような阿吽の呼吸の関係ができあがるのです。
この記事の執筆者
ロマンライフ専務取締役・番頭
静岡県立大学教授